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東京地方裁判所 昭和61年(ヲ)86号 決定

申立人(買受人) 遠藤廣章

代理人弁護士 村山廣二

主文

当裁判所が、上記基本事件において、別紙物件目録(1)の1ないし5記載の土地、建物につき、昭和60年11月13日言い渡した売却許可決定は、これを取り消す。

理由

1  申立人の本件申立ての趣旨及び理由は、次のとおりである。

申立人は、上記基本事件において、別紙物件目録(1)の1ないし5記載の土地、建物につき昭和60年11月1日買受けの申出をし、執行裁判所は同月13日売却許可決定をした。ところがその後、申立人の調査によって、上記土地、建物のうち、5の建物の一階は、基本事件につき作成された物件明細書には登記簿上の表示のほか、(現況)という表示のもとに、増築部分が存在することを明らかにする趣旨で、登記簿上の床面積を超える床面積が記載されているが、その超える増築部分の床面積にほぼ相当する部分が、別紙物件目録(2)記載のとおりの表示で、基本事件の所有者である末村秀成以外の第三者である木内幸太郎名義で保存登記されていることが判明した。これは、民事執行法七五条一項にいう「不動産の損傷」と同視できるものであるから、同条項により上記売却許可決定の取消しを求める。

2  よって判断するに、基本事件の記録によると、同事件は、昭和56年11月24日別紙物件目録(1)の1ないし5記載の土地、建物につき、昭和54年1月8日受付をもって設定登記を経由した申立債権者の抵当権に基づいて競売開始決定があり、同年12月4日受付をもってその旨の登記を経由したこと、同目録(1)の5記載の建物は、昭和53年10月15日新築を原因として同年12月23日受付をもって表示登記を経由し、昭和54年1月8日受付をもって末村秀成名義で保存登記を経由したこと、同事件につき執行裁判所が昭和58年8月18日付で作成した物件明細書には、同建物の現況は、一階の床面積が登記簿の表示よりも広く、同目録(1)の(現況)として記載してあるとおりである旨表示されており、執行裁判所は、同月19日同目録(1)の1ないし5記載の土地、建物を一括売却する旨決定し、最低売却価額を二五、二八一、〇〇〇円と定めたが、その後昭和60年4月22日これを一九、六〇〇、〇〇〇円と変更したこと、執行裁判所は同年6月14日、上記土地、建物につき期間を同年12月13日までと定めて特別売却実施命令を発し、申立人が同年11月1日買受けの申出をし、執行裁判所は同月13日売却許可決定を言い渡し、同決定は確定したこと、以上の各事実を認めることができる。

更に、本件記録によると、申立人は前記の理由により、昭和61年2月12日本件申立てをしたこと、同目録(1)の5記載の建物の物件明細書に(現況)として記載されている一階の床面積のうち、登記簿上の床面積を超える床面積にほぼ相当する部分が、同目録(2)記載の表示で昭和54年7月27日新築を原因として昭和59年1月25日受付をもって表示登記を経由し、同月27日受付をもって基本事件の所有者末村秀成以外の第三者である木内幸太郎名義で保存登記を経由したうえ、同年8月20日受付をもって斎藤武を抵当権者とする抵当権設定登記を経由していること、以上の各事実を認めることができる。

そして、基本事件記録中の当庁執行官椎名辰男作成の現況調査報告書には、一階部分につき約二五、五四平方メートル(応接室部分)の増築部分がある旨記載されており、また評価人飯島実作成の評価書(その補充書も含む。)には、本件建物一階部分は事務所部分が増築されており、評価は現況床面積で行った旨記載されているうえ、更に一階事務所部分建築費に関する債権者と称する小丸貞夫と面接したところ、同人(有限会社丸建鉄工業の社長)は、「昭和54年秋に、一階事務所部分を増築の代金約三五〇万円を受けとっておらず、債権を末村秀成氏に請求中である。」旨陳述した旨記載されていることが認められ、これらの事実に、上記現況調査報告書、評価書添付の各図面、写真等を合わせ参照すると、同目録(2)記載の建物は、独立の建物ではなく、同目録(1)の5の(現況)の記載のとおり、登記簿に表示特定されている建物につき、所有者末村秀成が昭和54年秋ころにした増築にかかる部分に過ぎず、この部分にも民法三七〇条本文の趣旨により、申立債権者の抵当権の効力が当然に及ぶものといわなければならない。なお、本件記録中の当裁判所が民事執行法一八条一項により送付嘱託した同目録(2)記載の建物の表示登記及び保存登記の申請書類中には、上記各登記手続の申請代理人である土地家屋調査士川原幸治作成の同建物の図面があり、これには、同建物は同目録(1)の記載の建物の増築部分ではなく、全く独立の建物であって、両建物の間には、〇、一〇mの間隔があるように記載されており、この図面に基づき独立の建物として表示、保存登記がされたことになるが、この図面の記載が事実に反するものであることは前記認定の事実に照らして明らかである。

以上のとおり、同目録(2)記載の建物は、同目録(1)の5記載の建物の増築部分であって、独立の建物ではなく、申立債権者の抵当権の効力は、これに当然及び、申立人は買受代金を納付することにより、その部分の所有権も取得することになるから、上記物件明細書は(現況)の部分を含めて、記載に違法な点はない。しかしながら、申立人は、同目録(1)の5記載の建物につき、代金納付により直ちに登記上も完全な所有権を取得することはできず、木内幸太郎を被告として所有権に基づき同目録(2)記載の建物の保存登記の抹消登記手続請求の訴訟を提起すれば、比較的容易に請求が認容されるであろうが、そのためには手数、時間、費用等の負担を強いられることになり、売却決定期日までに上記保存登記を経由していたにもかかわらず(基本事件の記録中には、このような事実を窺わせるに足る資料はない。)、同目録の5記載の建物も含め、一括売却の最低売却価額の決定に際して、その点が何ら考慮されていないことも前記評価書(その補充書も含む。)の記載に照らして明らかである。

そして、このような申立人(買受人)が負うべき事実上の負担を考慮しないで最低売却価額を定めることは相当でなく、上記保存登記が、前記認定の経緯からみると執行妨害を目的としてされたものであろうことは推認するに難くないが、そうであるからといって、このような負担を申立人(買受人)に何らの対価なく帰せしめる結果となる前記売却許可決定を維持することは、民事執行法七五条一項の趣旨に照らし、許されないものと解すべきである。

よって、同条同項を準用ないし類推適用して、売却許可決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 中根勝士)

〈以下省略〉

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